フィルム・ノワール傑作選 PART4 フィルム・ノワール傑作選
PART 4
Shock (1946)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未発売
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(P)2006 20th Century Fox (USA) |
画質★★★★★ 音質★★★★☆ |
DVD仕様(北米盤) モノクロ/スタンダードサイズ/ステレオ・モノラル/音声:英語・スペイン語/字幕:英語・スペイン語/地域コード:1/70分/製作:アメリカ収録特典 映画評論家による音声解説 |
監督:アルフレッド・ワーカー 製作:オーブリー・シェンク 原作:アルバート・デモンド 脚本:ユージン・リング 台詞:マーティン・バークレー 撮影:ジョセフ・マクドナルド グレン・マクウィリアムス 音楽:デヴィッド・バトルフ 出演:ヴィンセント・プライス リン・バリ フランク・ラティモア アナベル・ショー マイケル・ダン リード・ヘイドリー ルネ・カールソン |
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夫との再会を待ち望む若妻ジャネット(A・ショー) | 隣の部屋から男女の言い争う声が | 殺人現場を目撃してショックを受けるジャネット |
第二次世界大戦直後のアメリカでは、戦場から帰った兵士たちの精神的後遺症の治療が積極的に行われ、精神病理学がちょっとしたブームになった。そうした時代を背景に生まれたのがヒッチコックの『白い恐怖』(45)やロバート・シオドマクの『暗い鏡』(46)といった一連の心理サスペンスだったわけだが、本作もその流れを汲む作品と言えるだろう。
主人公は有能な精神科医クロス博士。看護婦のエレインと不倫関係にある彼は、離婚話のもつれから妻を殺害してしまう。ところが、その現場を目撃した人物がいた。ジャネットという若い人妻だ。ショックで昏睡状態になったジャネットを精神病院に入院させたクロス博士は、エレインと共謀して彼女を精神病患者へと仕立てていく。
精神病院に閉じ込められた� ��性の恐怖を軸に、自ら犯した犯罪を隠蔽しようとする医師の葛藤が描かれていく。フィルム・ノワールというよりは、限りなく犯罪スリラーに近い内容の作品かもしれない。
絶体絶命の状況に追い込まれたヒロインを巡るドラマはまさに悪夢で、スリラーとしては絶好の題材と言えるだろう。当時としてはかなりショッキングな映画だったに違いない。ストーリーもシンプルで無駄がなく、70分という短い上映時間をテンポ良く進んでいく。
だがその一方で、犯人のクロス博士を同情の余地のある人物として描くことで、本来あるべき緊張感がそぎ落とされてしまったようにも感じる。犯罪の主導権を握っているのはあくまでも看護婦エレインであり、クロス博士は悪女の誘惑によって道を誤ってしまった悩める子羊。犯人が� �ずしも絶対悪ではないがために、ヒロインの置かれた危機的状況にも隙間風が吹いてしまうのだ。
また、舞台となる病院もごく普通の精神病院であり、そこに勤務する従業員も基本的には善意の人々。悪いのはクロス博士とエレインだけだ。そのクロス博士さえも、自らの罪を償うべきかどうか迷っている。なので、必然的に作品全体を包む空気にもどこか長閑さが漂ってしまい、肝心の恐怖感が希薄になりがちだ。
ただ、それもこれも『カッコーの巣の上で』(75)や『チェンジリング』(08)のような作品を既に見ていればこそ。古い映画を評価する場合は、製作当時の視点や価値観というものも考慮に入れなければなるない。
本作の場合も、今となっては緊張感に欠けるという印象が否めないものの、当時の観客にとって� ��十分に怖い映画であったろう。確かに『カリガリ博士』(19)というドイツのサイレント映画はあったが、あちらはあくまでも狂人の視点から描いた作品。精神病院を舞台にしたスリラー映画の先駆けとして、是非ともオススメしておきたい一本だ。
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昏睡状態の妻を発見した夫ポール(F・ラティモア) | クロス博士(V・プライス)はショックの理由を悟る | アナベルを入院させることにしたクロス博士 |
サンフランシスコのとあるホテル。一人の若い女性がチェックインをするためにカウンターを訪れた。彼女の名前はジャネット(アナベル・ショー)。戦争が終って除隊した夫ポール(フランク・ラティモア)と、このホテルで落ち合う約束なのだ。
3年ぶりとなる夫との再会に胸を弾ませるジャネット。ところが、夫はまだ到着していない。そればかりか、ホテルの予約すら入っていないという。支配人の配慮で空き部屋に泊まることとなったジャネットだったが、夫の身に何か起きたのではないかと気が気でない。
心配のあまり寝付けなかった彼女は、暗い部屋の中で独り涙に濡れていた。そんな時、激しく口論をする男女の声が 聞こえてきた。向かいの窓を見ると、身なりの良い男女がお互いを罵り合っている。どうやら二人は夫婦のようだった。ところが、男性の怒りが頂点に達したとき、彼は衝動的に妻を殴り殺してしまった。恐るべき光景を目の当たりにしたジャネットはショックで言葉を失い、硬直状態のままソファーに座り込んでしまう。
翌朝、ようやくホテルに到着したポール(フランク・ラティモア)は、愛する妻の待つ部屋へと駆け込んだ。ところが、ジャネットは放心状態のままで何ら反応がない。急いで医者を呼んだポールだが、彼女はそのまま昏睡状態に陥ってしまった。
そこで、医者はホテルに宿泊していた高名な精神科医クロス博士(ヴィンセント・プライス)を呼ぶ。それは、ゆうべ妻を殺害した男性その人だった。発見さ れたときのジャネットの様子を訊ねたクロス博士は、窓から自分の宿泊していた部屋が見えることに気付き、彼女が殺害現場を目撃していたのではないかと察する。彼はジャネットに精神障害の疑いがあると告げ、自分の経営する精神病院で治療する必要があるとポールを説得した。
ジャネットを入院させたクロス博士は、エレイン(リン・バリ)を担当看護婦に指名する。彼女は博士の愛人であり、妻との離婚をけしかけたのも彼女だった。博士は昏睡状態のジャネットに催眠術をかけ、彼女が殺害現場の目撃者であることを立証した。意識が戻れば、記憶が甦るのも時間の問題だ。そこで、二人は治療を行っているように見せかけて、ジャネットのこん睡状態を維持するように画策する。
妻の容態が悪化したことに気付いた ポールは別の精神科医を呼んで診察してもらうが、治療の糸口は見つからなかった。ところが、ある晩重度の精神病患者が部屋を抜け出し、ジャネットの病室に迷い込んでしまう。それを発見したエレインは患者ともみ合いになり、助けを求めて叫び声をあげた。そのショックで、ジャネットが意識を取り戻してしまう。
翌日、病院スタッフからの連絡を受けたポールがジャネットのもとへ駆けつけた。すると、診察に訪れたクロス博士の顔を見て、ジャネットは恐怖の表情を浮かべる。この人は奥さんを殺した犯人だと。
しかし、博士はそれが精神障害による妄想だと診断し、長期の入院治療が必要だとポールに伝える。なぜなら、妻は旅行に出かけて不在だが、まだ生きているのだから。だが、その直後にクロス博士の妻が 山奥で死体となって発見される。死因は崖からの転落死と断定された。
博士とエレインはそれを逆手にとり、ジャネットを精神病患者に仕立てていく。少なくとも彼女が昏睡状態に陥った時点では、博士の妻は旅行中で不在だ。新聞記事を見せながらジャネットを厳しく問い詰めていくクロス博士。真実を訴えようとするジャネットだったが、病院のスタッフは誰も信じてくれなかった。
だが、妻の言動と博士の態度に疑問を抱いたポールの通報により、検事オニール(リード・ヘイドリー)がクロス博士の周辺を調査し始める。危機感をつのらせた博士はこれ以上の罪悪感に耐えることができず、己の罪を告白すべきではないかと思い悩む。
しかし、そんな彼をエレインが一喝する。これまで自分が日陰の身で耐えてき� ��のは何のためだったのか?結婚するという約束を忘れたとは言わせない。ここまできたら、ジャネットを亡き者にするしかない、と。
エレインの強固な態度に従うほか術のなかった博士は、言われるがままジャネットにインスリンを大量投与してショック死させようとするのだが・・・。
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催眠術で殺人現場の目撃を告白するジャネット | 看護婦エレイン(L・バリ)は博士の愛人だった | 妻の容態の悪化を心配するポール |
もともと本作は『ローラ殺人事件』(44)や『哀愁の湖』(45)の脇役で高く評価されたヴィンセント・プライスに主演作を、ということで企画された作品だったらしく、フォックスのタレント部主任だったオーブリー・シェンク自らが製作を買って出た。これをきっかけに、彼はプロデューサーへと転向することになる。
監督はフィルム・ノワールの名作『夜歩く男』(48)で知られる職人監督アルフレッド・ワーカー。サイレント時代よりB級西部劇からコメディまで幅広く手掛けた人物で、いわゆる芸術肌の映画監督ではないものの、リズミカルなストーリー・テリングの巧さはさすがベテラン職人といったところ。
原作を書いたアルバート・デモンドは リパブリック・ピクチャーズでB級西部劇を大量生産していた脚本家。脚色を手掛けたユージン・リングは当時低予算のフィルム・ノワールを数多く手掛けていた人物で、ワーカー監督と組んだ"Lost Boundaries"(49)ではカンヌ映画祭の脚本賞を受賞している。また、『半魚人の逆襲』(54)や『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』(55)で知られる脚本家マーティン・バークレーが台詞を担当した。
撮影を担当したのはジョセフ・マクドナルドとグレン・マクウィリアムス。マクドナルドは当時まだ新進気鋭の撮影監督だったが、同じ年の『荒野の決闘』(46)で高く評価され、その後『革命児サバタ』(52)や『ナイアガラ』(53)、『若き獅子たち』(58)、『砲艦サンパブロ』(66)などの名作を手掛けることとなる。フィルムノワール作品も少なくない。
一方のマクウィリアムスはサイレント時代から活躍するベテランで、ルイス・マイルストンの名作『犯罪都市』(31)やヒッチコックの『救命艇』(44)などで知られるカメラマンだ。
そして音� ��のデヴィッド・バトルフは低予算の西部劇やホラー、犯罪ドラマなどを数多く手掛けた作曲家。ジョン・フォード監督の『タバコ・ロード』(41)やテレビの人気ドラマ『マーベリック』のテーマ曲も彼の仕事だ。
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意識を取り戻したジャネットは博士が殺人犯だと主張する | しかし、誰も彼女の言葉に耳を傾けてくれない | ジャネットを精神病患者に仕立てようとするクロス博士 |
主人公クロス博士を演じるヴィンセント・プライスは当時45歳。これが初の本格的な主演作だった。この7年後に主演した『肉の蝋人形』(53)をきかっけにホラー俳優としての道を歩んでいくことになるわけだが、本作でもその片鱗は十分に伺える。どこか怪しげな雰囲気のある長身の2枚目という感じで、情緒不安定な危なっかしさは後の『アッシャー家の惨劇』(60)にも通じるだろう。
その愛人である看護婦エレインを演じるリン・バリは、第二次大戦中にピンナップ・ガールとして人気を博したB級映画女優。主に悪女役として売り出した人だったが、これといった代表作には恵まれなかった。それでも、アメリカではカルト女優と� �て現在も根強い人気を誇っている。決して演技が上手いとは言えないが、女王様然としたサディスティックな存在感はなかなかのもの。出てくるだけで画になるタイプの女優と言えるだろう。
殺人現場を目撃する若妻ジャネット役のアナベル・ショーは、これが初の大役だった新人の若手。どこにでもいそうな"隣の女の子"タイプの女優で、70年代頃まで活動を続けていたようだが、いずれも低予算映画の脇役ばかりだった。
ジャネットの夫ピーターを演じているフランク・ラティモアは、当時フォックスが売り出し中だった2枚目俳優。しかしあまり成功せず、50年代以降はイタリアへ活動の拠点を移し、スペクタクル史劇や歴史ドラマ、マカロニ・ウェスタンなどに主演して活躍した。
また、サミュエル・フラー監督� ��『地獄への挑戦』(49)でジェシー・ジェームス役を演じたリード・ヘイドリーが検事オニール役で顔を出している。
Raw Deal (1948)
日本では劇場未公開
VHS・DVD共に日本未公開
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(P)2005 Classic Media/Sony (USA) |
画質★★★☆☆ 音質★★★☆☆ |
DVD仕様(北米盤) モノクロ/スタンダードサイズ/モノラル/音声:英語/字幕:なし/地域コード:1/79分/製作:アメリカ映像特典 なし |
監督:アンソニー・マン 製作:エドワード・スモール 原案:オードリー・アシュリー アーノルド・B・アームストロング 脚本:レオポルド・アトラス ジョン・C・ヒギンズ 撮影:ジョン・オルトン 音楽:ポール・ソーテル 出演:デニス・オキーフ クレア・トレヴァー マーシャ・ハント ジョン・アイアランド レイモンド・バー カート・コンウェイ チリ・ウィリアムス レジス・トゥーミイ |
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